きおくのさくら「おじいちゃん、きれいだね。」 僕はこう言った。いや、それしか言うようがなかった。この一心行という桜はきれい・美しいと言葉でくくることができなかった。圧巻だった。そういう僕を見ていたおじいちゃんはこう言った。 「そうだね。わたしも長年見てきているが、この桜は飽きないものだ。ところで、ゆうとはこんな話を知っているかい。この一心行にまつわる話をね。」 「なになに。聞かせておじいちゃん。」 「そうかい、そうかい。じゃあ、聞かせてやろう。今は昔・・・」 そういうとおじいちゃんは語り始めた。 ーーーーーー 「おい、秀作。一心行見てみろよ!すごいぜ。」 「うん、そうだね。」 「何だ、そのクールな反応は・・・。お前は昔からそうだな。それにしてもやっぱ、すげえなあ。そうだ、今から行こうぜ。」 「え、でも・・・。どうして今じゃなきゃいけないに。」 「つべこべ言わず来い。今日じゃないとだめなんだよ。」 僕の友人・太郎に怒鳴られたので、おびえるようについていった。あぜ道を二人かけていった。 「まったく、早くしろ。日が暮れるぞ。」 「わかったよ、まってよ。」 「問答無用。」 そういうと太郎は突然全速力で駆け出した。僕も負けじと追いかけた。一心行までの一本道を全速力で駆け抜けた。そして、そこについた。 「少し疲れたな。」 「もう。少しはゆっくり走ってよ。僕、運動苦手なのに・・・。」 「文句言うなって。この桜が泣くぜ。でも、すげえなあ。」 「うん、やっぱりすごいよね。」 一心行の大桜に見とれていた。今は満開時。桜吹雪がすごかった。 「あのな。今日、お前に話したいことがあるんだ。」 「え、なに?。」 僕はぜんぜん見当がつかなかったが、何かいやなものを感じた。 「俺、明日トウキョウに引っ越すんだ。父さんが陸軍大佐に昇格したからしい。明日には引っ越さないといけないんだ。ごめんな。あの約束、守れないで。」 「いいよ、しょうがないよ。」 僕はしょうがないと思っていたが、内心では別れを惜しんでいた。目には涙をためていた。どうしてどうして・・・。 「泣くなよ、お前。」 「泣いてないよ。大丈夫だよ。熊本に帰ってくるの待っているから。」 「ああ、トウキョウでもがんばる。そして、父さんみたいな軍人になる。そして、戦争に勝つぜ。そして、ここに戻ってくるからな。約束だからな。」 「うん。」 「おっ、いけね。もう日が暮れそうだ。早く帰ろうぜ。母ちゃんに起こられる。」 「そうだね。」 そういうと一目散に家に帰ったのだった。 ーーーーーーーーー 「~とまあこういう話じゃ。」 話の途中から目にうっすらと涙をためていたが、言い終わると同時に決壊した。男泣きしていた・・・。 「どうしたの。」 僕は心配して、おじいちゃんを見ていた。おじいちゃんは涙を拭き、この桜を見上げて、こういった。 「あの後、一年後ぐらいじゃったかの。戦争がだんだんと激しくなってきた。ここは空襲を受けんかったが、東京などのとかいはひどくてな・・・。その空襲で太郎君はなくなってしまったのだ。確か、お父さんは戦場でなくなったと聞いておる。」 涙が止まらなかった。 「そんなおじいちゃん、独りぼっちになっちゃったの。」 「いや、そんなことはないぞ。お前がいるじゃないか、ゆうと。それにこの桜を見るとな、なんか懐かしい気持ちになる。きっと、思い出が詰まっているからだろうなあ。」 「そうなの。」 「そうじゃとも。」 そういうと笑っていた。今まで、重苦しかった空気を吹き飛ばすかのようにおじいちゃんは笑っていた。 「私は幸せだ。ゆうと、お前は天使のようなやつだからな。」 「もうおじいちゃん。そんなこといわないでよ。恥ずかしいよ。」 おじいちゃんはわっはっはと笑っていた。僕もつられて笑っていた。そして、一心行に対してこういった。 「きみ、太郎君だよね。」 「うん。」 そういった気がした。 ご静聴ありがとうございました。 |